原点回帰の武蔵野、“孝行息子”阿部拓馬の帰還で貴重な勝利
写真:先制点を決めるなど活躍した武蔵野のFW阿部。
MATCH REPORT後藤 勝
<社会人代表決定戦:横河武蔵野 2-0 南葛SC>
試合後、横河武蔵野FCの石村監督は東京都サッカートーナメント進出を殊の外喜んだ。大学勢と戦い天皇杯の東京都代表の座を獲得することにつながる社会人代表決定戦には、JFLとは異なるモチベーションがあったからだ。
東京ユナイテッドFCとの提携が終了し、クラブ全体としてJリーグ加盟をめざすことなく、アマチュアクラブの最高峰を志そうと意志を揃えた2024年。クラブ名を横河武蔵野FCに戻し、原点回帰で新しいシーズンに臨んでいる。そうなると、Jクラブ相手に勝利を収める、そうした場で戦う、日本一になるといったことを実現するには天皇杯に出場するしかない。「まず東京の代表を獲ろうということでやっています」という石村監督の言葉に、士気の高さがうかがえた。
「選手もそうだけど、はっきり方針が固まったのでぼくら(スタッフ、フロント)も迷いが全然ない。アマチュアだけど、こういうサッカーをしようとトレーニングが出来て、他に矢印が向かなくなっている。選手が38人いてけっこう大所帯だが、交代の選手が頑張ってくれて、メンバーじゃない選手もすごくいいトレーニングをしてくれている。そういった面でも一丸になっている感じはある」
きれいにラインを揃えた4-4-2で2トップからたゆまずプレッシャーをかけていき、ボールを保持するといい立ち位置をとって間にパスを通していく。モダンなフットボールを遂行し、南葛を終始抑え込む武蔵野の強さが目立つ試合だった。
勝利を決定づけたのは、昨シーズンはFC琉球に在籍していたFW阿部の先制ゴールだった。長年のプロ生活で名を上げた、横河武蔵野FCユース出身の“孝行息子”が石村監督に恩返しをする恰好だった。「自分はずっとアカデミーの統括なので、彼が高校生の時もよく知っている。ここに戻ってくる時も、(キャリアの)最後のところで横河に恩返しをしたいという彼の想いもあって……」と、石村監督。そしてこの試合の活躍を、スクール生の少年たちも配信で観ていた。武蔵野の根幹は普及と育成。阿部はスクールコーチとして働きながらトップチームで活躍する、まさに武蔵野を体現するエース。クラブの過去から未来までをつなぐ存在と言える。
決して楽な試合ではなかった。ピッチコンディションの悪さは予想以上。南葛相手に中を通すのは難しいと、特に相手が前半の途中でMF今野を投入してからは外回しで攻めるなど、工夫を凝らした。ただ、戦い方は変えず、コンパクトに保つ、プレスバックを入れるという内容はいつもどおり。南葛が関東リーグ1部開幕戦から9人を変えてきて「スカウティングの資料が全部無駄になった」と苦笑いの石村監督だったが、1939年の創立以来培ってきたクラブ力があらゆる条件を凌駕するような、確固たる信念を感じさせる勝利だった。
・南葛「時間のズレ」を揃えきれず 長いスパンで育成を図るがゆえの敗戦
◇大会日程・トーナメント表
・第29回東京都サッカートーナメント