東京サッカー [TOKYO FOOTBALL]

INTERVIEW

今矢直城[栃木シティFC監督]

新天地で再始動
「攻撃的、アグレッシブなサッカー披露へ」

2021年にJリーグの監督を務めるのに必要なS級コーチライセンス講習会を受講し、先日、関東1部の栃木シティFCの監督就任が決まった今矢直城氏。S級講習会での新たな学び、自らのサッカー哲学、監督就任が決まった栃木シティでの意気込みや目標を聞いた。(※インタビューは2021年12月に実施)

PROFILE

今矢直城 1980年、兵庫県出身。現役時代はオーストラリアやスイスなどでプロ選手として活躍。引退後は指導者として早稲田ユナイテッド監督や東京国体選抜コーチを歴任。2017年にはW杯アジア最終予選でオーストラリア代表チームのスカウティング部門として日本代表の分析を担当。2018年には横浜F・マリノスでオーストラリア国籍のアンジェ・ポステコグルー監督やピーター・クラモフスキーコーチらを通訳として支え、2019年にはアジアサッカー連盟(AFC)で互換性のあるA級ライセンスをオーストラリアで受講して取得。2020年には清水エスパルスの監督に就任したクラモフスキー氏からオファーを受けてコーチを務め、2021年からはJFA公認S級コーチライセンス受講。同年11月に関東1部の栃木シティFCの監督就任が決まった。

 

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CONTENTS 03
攻撃的サッカーが信条
日々の勉強が自分の信念に

──ご自身のサッカー哲学は。

「プレーする選手たちが楽しんで、それを観戦するお客さんたちも楽しんで、もう一度見たいと思えるようなサッカー。守って守ってカウンターで一発、セットプレーで1点取って勝つというような守備重視のサッカーではなくて、もちろんそういうサッカーが好きな人もいるが、大半はそれを週末に見たいかというとそうではない。やはり、みんな初めてサッカーをした時には守備から入らないと思うし、ボールを渡したくない、自分が蹴りたい、その気持ちが強かったと思う。その気持ちを忘れないでもらいたい。そうなると、自分たちがボールを持って、主導権を握って、ボールがない時はすぐに奪い返すということが僕のサッカーの基本になる。じゃあ、それをどうやって落とし込んでいくかは、もちろん色々とやり方はあるが、ヒントになるのはそこかなと思う」

──当然、栃木シティでもそのサッカーを目指すことになるのか。

「そうなる。アグレッシブで攻撃的で、自分たちからアクションを起こして、ボールがなければ奪いにいく。ボールを持ったなら相手に渡さない。ゴールを常に狙って、1-0で勝っていても次の1点、また次の1点を狙いにいく。そういうアグレッシブな姿勢を選手たちには取ってもらいたいし、選手にはそういう人生を歩んでもらいたい。そこはサッカーのプレーモデルにも表れると思う」

──自分のサッカーを落とし込んでいく上で大切にしていることは。

「自分の中の信念を大切にし続けること。正直、攻撃的なサッカーというのはブレやすく、脆いところもある。高い位置からのプレスだったり、自分たちが常にボールを握ろうとする戦術は逆に弱点にもなり得るし、結果的に目の前の試合は負ける時もあるかもしれない。そういった時に自分自身がこのサッカーを信じていなかったら、色々な人の意見に耳を傾けて軸が段々とブレてくる。そうならないためにも日々勉強し続けること。このサッカーが本当に正しいんだというエビデンスを今のサッカーのトレンドの中で毎週、毎週確認していくこと。結局、それが自分の信念につながる。言葉というのは自分が信じていない時は伝わらないと思うし、どれだけいい映像を見せても、プレゼンしても選手は敏感に感じ取り『そうはいってもこの監督、言っている言葉が少しずつ変わってきたよね』となる。そうならないためにも日々勉強し続けることが大事」

──現時点で選手たちへのプレゼンテーションはもう終えたのか。

「まだしていない。本格的な落とし込みは新シーズンが始まってからになる。もちろん今も練習試合、紅白戦の振り返りのところで、キーになる部分、自分はこうしたいというのは伝えている。ただ、本が100ページあったら一気に100ページはめくれないし、今は1ページ、1ページをしっかりとめくっていっている段階」

──監督にとって伝えるという能力はかなり大事なものか。

「大事だと思う。以前にポステコグルーさんやピーターさんからも言われたが、選手たちに色々書いたりして説明しても選手は基本見ない。どれだけシンプルに伝えるかが大事で『シンプル・イズ・ザ・ベスト』ということを言われた。清水エスパルスの時に選手への個別フィードバックもやっていたが、ピーター監督からは最初よくダメ出しされた。『これじゃ選手みないよ。長すぎる。このシーンで何を伝えたいのか、きちんとストーリー性を描いて○分以内にやらないとこれ以上は聞かないよ』とか、分単位で決められていた。彼らの中ではハーフタイムでも何分話すとかメソッドがある」

CONTENTS 04
練習メニューは緻密
テンポよく、常にインテンシティ高く

──今日の練習ではボールポゼッションやミニゲーム的な内容が多かった。その都度、練習の意図などは説明するのか。

「本格的にシーズンが始まれば、練習前のミーティングで軽く練習の意図は伝えるかもしれないが、今日の練習は事前にメニューを貼り出している。それを選手たちに見てもらって、頭の中でイメージしてもらい、実際の練習前にはいちいち説明しなくてもいい状態にしている。そうすることで自然と選手たちは僕がやってほしいプレーができるような設定になるし、練習中の余計なコーチングの回数が減る。やはりピッチで色々とルールなどを伝える時間がもったいないし、できるだけテンポ良く、効率よくやることが大事」

──ご自身の練習内容の特徴は。

「テンポよく、インテンシティが高くなるように取り組んでいる。S級講習会の時のインストラクターの方からも『今矢くんのセッションはテンポが早くて強度が高い。これはすごく強みだし、良いことだから続けてほしい』と言ってもらえた」

──具体的に練習の中での『インテンシティ・強度』とは。

「アグレッシブに動くということになる。あとは単純にGPS装置を身につけてもらっているので、各練習の各分野で自分が望んでいる数値に達しているかどうか。練習後にフィジカルコーチからデータを送ってもらって、静的な時間が多いということはボールが止まって休みが多いということになるし、強度が高ければ休む時間が少なく、それだけ人が動いている状況をボールがある状態で作れているということになる。ただ、数値が低いからといって選手がすべて良くないということではない。そもそも練習におけるこちらのルール設定が悪かったかもしれないし、グリッドのサイズの問題かもしれないし、コーチングが足りないのかもしれない。やはり選手は納得しないと動かないと思うので、そういった雰囲気を作るのも監督の大事な仕事だし、プランニングというのも大事になる」

──練習のプランニングはかなり細かいところまでこだわるのか。

「練習はかなり緻密に考えている。ボール回しひとつにしてもルール設定のミスが原因で、それが試合に出ることがある。それをいちいち試合で怒っていても選手からすると『いやいや、そもそもあのボール回しのルール設定が悪いんだよ』となるくらい練習は大事。まずは自分のプレーモデルを明確にして『だったら、この練習のルールはないよね。このクロス練習はないよね。このゴール前の守り方はないよね』となっていく。逆にプレーモデルが明確でないと、練習自体もバラバラになるし、とりあえず3対1をやろうとか、この前の試合でこうだったからこれをやろうとなる。そうではなくて、自分のサッカーがこういうものだからこの練習をやる、という流れにしないといけない」

──試合におけるポゼッションは重要視しているか。

「ポゼッションはあまり気にしない。全く気にしないということではないが、結局、サッカーはゴールを奪わないといけないので、どのエリアでポゼッションをするかが大事になる。自陣でポゼッションをする必要はないし、相手陣地で押し込んだ状態でポゼッションが高いのであれば、それはいい試合ということになる。どれだけ相手が怖いと思うところ、エリア内だったりゴール前に入れるか。逆に相手にそれをさせなければ勝つ確率は高くなるわけで、それが出来ているか、出来ていないかのほうが大事だと思う」

──志向するサッカーで結果が出ないと、シーズン中に現実的なサッカーに切り替える監督もいる。そういう時の考えは。

「何がうまくいって、何がうまくいっていないかをもう一度考えたり、振り返ることは大事。ただ、それはあくまで自分のプレーモデルを成立させるためにすることであって、結果が出ないからといってサッカーを変えるということは100%ない。そこは信念の話に戻るが、自分はこれが勝つサッカーだと思っているからこのスタイルをやっているわけで、それを成立させるためにはどうすればいいか、今週は何を準備をすればいいかを考えるだけ。それが自分の本をめくっていくことであって、そこで考え方を変えてしまうということは、今度は違う本を開いてページをめくっていくことになる。僕はそれは違うと思うし、同じ本を開いて1ページ戻ることはあるが、別の本を開くということはしない」

──試合終盤、どうしても1点を取るために形を崩して、前線にCBを上げるなどパワープレーをしたりすることは。

「ない。もちろんクロスに入る人数が少ないから中盤の選手をひとつ前に上げることはあるかもしれないが、残り5分とかでCBを前線に上げてそこにロングボールを放り込むようなことはしない。それで1点が取れるなら試合開始からやればいいとなるし、そもそものプランニングが間違っていたことになる。あくまで自分たちのプレースタイルを崩さず、前線の枚数を増やして1点が取れたのであれば、次の試合では初めからやるかもしれない。でも、突然CBを前線に上げるというのは、この1週間の練習ではやっていないことで、仮に1点が取れたとしてもそこは自分の根本的な信念とは変わってくる。もちろんパワープレーというやり方自体は全く否定しないし、点を取るやり方が色々あるのがサッカーというスポーツ。相手からすれば今まで見たことない景色を見ることになるし、自分たちも相手にされた時は対応出来るように準備していなくてはいけない」

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