PROFILE
李成俊 1974年、東京都出身。東京朝鮮高校 - 立正大学。現役時代はプロ選手を目指すも叶わぬまま20代後半から本格的に指導者へ転身。J2・水戸のジュニアユースチームで長く指導したあと2016年からはブータン王国にて世代別代表の監督を2年間務め、2018年には国体・東京選抜(成年)のコーチとして予選突破、本大会準優勝に貢献。2019年からは明治学院大学サッカー部の指導にあたりつつJFA公認S級コーチライセンスを受講。2022年から国体・東京選抜(成年)の監督に就任した。
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CONTENTS 03
2016年から2年間ブータン王国へ
指導者の自分を見つめ直す機会に
── A級ライセンス取得後に2016年から2年間、日本サッカー協会(JFA)のアジアサッカー発展事業の一環として、ブータン王国の世代別代表(19歳以下と17歳以下の2チーム)の監督に赴任した。その時の経緯は。
「毎年、A級ライセンス以上の指導者に対して、JFAから海外派遣のアナウンスがくる。そこで一度、自分もチャレンジしてみたかったので、JFAの門を叩き、面談、適性検査、指導力などを判断してもらって、非常にいい形で話が進んだ。現地に一度行って視察をすることもできたし、ブータンは英語圏でもあったので、そこは自分にとって大きなメリットだった。あとは過去に日本人のスタッフが途切れず育成やA代表を指導していたので、その基盤もできていた。デメリットとしては、いかんせんサッカーが弱いということ。それでも海外で自分が学べることは多いだろうし、サッカー以外においても言葉、環境面、メンタルなど色々とプラスの要素があると思ったので行かせてもらった」
── サッカーにおいて具体的にプラスになると思った要素とは。
「例えば日本は教育がよく行き届いているので、聞き方、聞く力、サッカーに対する概念もみんなある程度一定のレベルにある。良くいえば話が早くて、悪く言うとみんな同じ解釈しかしない。でも、海外に行くとバラバラの概念で、自分のサッカー観をどこまで伝えられて、どういう反応が返ってくるのかわからない。そういった丸裸の状態が見れるし、自分を見つめ直すことができる。さらにそういった事を引っさげて緊張感のある国際大会に代表チームを率いて臨む経験もできるので、そこもすごくプラスになると思った」
── ブータンでの2年間を改めて振り返ると。
「ブータンの選手たちはすごくオープンで明るいから、うまく乗ったら成長がすごく早い。本番に強く、意外性のある驚くようなアイデアを出してくれるし、小国でありながら、すごく度胸のあるプレーをしてくれてポテンシャルを感じた。ただ、国内での切磋琢磨だったり、そもそも国民性として競争したり、争って勝つということが良しとされていない優しいところがあるので、毎回、毎回結果を出し続けるということはまだまだ難しい。そこは時間が掛かると思う。それでも自分としてはスリランカやネパールに国際大会に行く経験もできたし、彼らによって指導者として一旦リセットして見つめ直すこともできた。願ったり叶ったりの2年間で、本当に行って良かったと思う」
CONTENTS 04
指導者に求められていること
目標の場所まで選手を連れて行くこと
── ご自身が考えるサッカー指導者とは。
「そもそもまず“教育者”なのか“指導者”なのかということがある。教育者は教えることだけど、指導者は“さしみちびく”というか、考えさせて、気づかせる。それぞれアプローチが違う。僕の中ではその中間だと思っていて、まだはっきり答えが出ていない。それとサッカーを通じて人間性を磨くとか、人間力を育むとか、人生をより良くするみたいなことを指導の際に言うが、そこも『そうだな』って思う反面、実際にはそんなおこがましい仕事でもないんじゃないかなと思うところがある。監督と選手はやる役割が違うだけで『この大会のベスト4を目指す』という目標があるなら、それを一緒にこなすだけ。監督は選手の目標を達成しやすくする、またはその都度、決断する。それ以上でもそれ以下でもないんじゃないかなと思う」
── 今は目標を果たすことを優先的に考えて指導にあたっているのか。
「目標から逆算して指導している。例えば今回の東京代表チーム。過去のチームに比べたら、参加選手たちのカテゴリーも低いし、実際に弱いと思う。チーム的にも組織力も個の力も。ただ、だからこそやる事が分かりやすくて、どうやったら負けづらくなって、勝つ可能性が高まるか。そこを逆算して構築している。初めに伝えたのは、このチームの考え方、ビジョン、あるべき姿で、その信念、哲学のもとにサッカーというルールの中でファイトしようということ。そういった大枠は打ち出した。ただ、それはあくまでもこちらが良かれと思って用意した形であって、それが本当に嫌だったら言ってもらって構わない。その考えに則って選手がやってみたい、やりたいと思えば一緒にやろうと。あくまでその目標を一緒に達成するための監督でしかないと思う」
── いま指導にあたっている若い大学生に対しては、サッカー以外の人間性なども含めてどういったことを伝えているのか。
「大学生の場合は学生気質があるし、サッカーがあってつながっている関係上、そのサッカーの『熱』を通じて色々な社会性を強めるアプローチができる。でも、本来は18歳から成人だし、大人として接し、お互いが成長し合いたい。その中で自発、自立ということはすごく促している」
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