TOKYO FOOTBALL

写真:小寺 真人 [エリース豊島FC]

エリースで新たな挑戦
「どんな内容でも勝つチームに」

INTERVIEW
小寺 真人[エリース豊島FC]

昨年、全国社会人サッカー大会優勝、全国地域サッカーチャンピオンズリーグ3位の成績を収めた九州リーグ・ヴェロスクロノス都農(宮崎)。その都農を4年間率いた小寺真人監督(38)が今季から関東1部のエリース豊島FCの指揮官に就いた。スペイン仕込みのサッカーを標榜する新監督に、これまでの指導者としての歩み、サッカー哲学、今季の展望を聞いた。

  • スペインで開いた指導者への扉

    ── 指導者としてのキャリアのスタートは。

    「大学時代に中学校のクラブチームのコーチをしたのが最初。その時はあまり手応えがなく、指導者で食べていくことは難しいと思っていた。ただ当時、スペインのバルセロナのサッカーをずっとテレビなどで見ていて、なぜバルサの選手たちはフリーでボールを受けられるのか、なぜボールをこれだけ動かせるのか。それを知りたいという思いがあり、実際にスペインに行けばプレーの判断基準、戦術的なコンセプト、そういったことを体系的に学べるコーチングスクールがあることも知った。それで一度は行ってみようということでスペインへと渡り、コーチングスクールに通い始めた。その後、自分自身が現地でプレーしていたクラブの10歳以下のチームの監督を任され、それが本格的な指導者としての再スタートになった」

    ── スペインで学んだ基礎、指導者としてベースになった部分は。

    「それまではフィジカルの強さ、技術、ボール扱いのうまさなど、目に見える部分ばかりを自分は見ていた。でもスペインへ行き、頭の中の部分、『戦術=判断』という目に見えない部分の大切さを学んだ。この場面でドリブルをするのか、パスをするのか、例えば自分にアドバンテージがあれば、ドリブルをして相手を引き付けてからパスをした方がいい。そういう判断の基準、コンセプトというものがスペインでは明確にまとめられていた。いままで自分はシャビやイニエスタがなぜこんなプレーができるのか理解できなかったし、指導者から『考えてプレーをしろ』と言われても何を考えていいかわからなかった。でもその考えるべきポイント、見るべきポイント、判断基準というものを自分は現地で学び、それを選手たちに伝えられるようになった。それが今の自分の指導者としてのベースであり、強みだと思う」

    エリース豊島・小寺真人監督

    間近で学んだ名将ロティーナの哲学

    ── その後、スペイン人のロティーナ監督のもとで、Jリーグクラブ(東京V、C大阪、清水)で監督通訳、分析を担当した。

    「本当に大きな影響を受けたし、多くのことを学ばせてもらった。自分はスペインで指導者ライセンス、レベル1、2、3を取得したが、その学んだ知識を選手、チームに落とし込むことは簡単ではない。あれもこれもと選手に知識だけを提示しても、選手はわけがわからない。でも、それを一つのゲームモデルにしてシンプルに提示できるのがロティーナ監督とイバンコーチ。それを自分が通訳として選手に伝えた。あのプロフェッショナルな指導に何年も触れられたことが、今の自分自身の土台形成につながっている」

    ── サッカー哲学における影響は。

    「すべてと言っていいほど影響を受けた。自分たちがボールと主導権を握り、相手をコントロールして攻撃する時間を増やしていく。それができなかったとしても堅く守ってゲームを壊さず、苦しんでも勝てるチームにする。そういう部分は自分のチーム作りの土台になっている。またサッカー以外のマネージメント、人間的な部分においてもロティーナさんはすごく平和主義者というか、感情的になることは一度もなかった。もちろん強く言うことはあるが、それは感情的なものではなく、強く言うべきことを言っているだけ。ロティーナさんがJリーグで指揮を執ったクラブは、どこもマネージメント的には簡単ではなかったが、どのクラブでも平和で意欲的なトレーニングが続いた。監督って少し変わった人も多いが、ロティーナさんはピッチ外でも偉ぶることなく本当に普通の優しい人。人間としてのあり方も学ぶことができた。それとロティーナさんのゾーンディフェンス。あれはロティーナさんからしか学べなかったし、スペインのスクールでも教わることのできないものだった」

    ── サッカーにおいては相当細かく、いわば完璧主義に近かったか。

    「完璧主義ではない。サッカーに完璧はなく、その確率、守備でいえば失点の確率を可能な限り下げること。例えば防ぎようのない失点というのは相手のゴラッソと呼ばれるようなスーパープレー、それと自分たちのミス、クリアミスであったりGKのパンチングミス。こういったことは人間がやっている以上はなくならない。でも戦術的エラーの失点は絶対に減らせるので、その確率を可能な限り減らす必要がある。そういった守備の考え方はすごく勉強になった。もちろん守備だけでなく、ロティーナさんは攻撃にもすごくこだわっていた人だったし、むしろ攻撃の方が自分自身は多く学んだ」

    最後の1試合で昇格逃した都農
    気持ちが動いたエリースからのオファー

  • 最後の1試合で昇格逃した都農

    ── その後、2022年から九州リーグ1部のヴェロスクロノス都農(宮崎)の監督に就任し、2025年までの4年間指揮を執った。昨年は全国社会人大会(全社)で優勝し、全国地域チャンピオンズリーグ(地域CL)では3位。JFL昇格は果たせなかったが、監督として一定の達成感はあったか。

    「去年終わったときは達成感よりも最後の1試合に負けてJFLに上がれなかった落胆、絶望感の方が大きかった。やはり『JFL昇格』が一番の目標だったので。もちろん全社で優勝、日本一になったことはクラブにとっても初めてで、宮崎県勢としても初の快挙。天皇杯予選でもJFL、J3のクラブに勝ち、本戦でもJ3のクラブに勝ち、最後はJ1の名古屋とも戦った。就任当初は地域CLに出るか出られないかだったチームを、4年連続で出場させて最後の1試合に勝てば優勝、JFL昇格というところまで強くできた。いま改めて振り返ると、一定の達成感はある」

    ── 地域CL決勝ラウンドは最終戦に勝てば優勝、引き分けでも2位で入れ替え戦。しかし、VONDSに0-1で敗れて3位で昇格を逃した。この紙一重の差をどう感じたか。

    「去年の地域CL決勝ラウンドはある程度皆さんが予想したチームが残ったと思う。特にジェイリース、VONDS、都農の上位3チームは本当にわずかな差だったと思う。その差を埋められなかったのはもちろん自分の実力不足を認めないといけない。けど、このいわゆる5部相当のカテゴリーの構造は特殊で、例えばJ1、J2、J3、JFLまではひとつのリーグ戦で順位、昇格が争われるが、この5部相当の地域リーグになるといきなり全国9つの地域リーグで昇格を争う。年間を通したひとつのリーグ戦で昇格を決めるのではなく、9つのリーグがあって、最後に短期決戦のほぼ一発勝負。最後の1試合に勝った、負けたで年間の昇格が決まってしまう。

    仮に、うちが地域CL最終戦の後半に倒されたシーンでPKをもらえていたら勝てたかもしれない。そういった自分たちの実力だけではどうにもできない部分があることを、このカテゴリーでは受け入れないといけない。だからといって自分ができることは変わらないし、毎年チームを強くすること、勝つ可能性が高いチームを作ることしかできないわけで、自分は都農でそれをやり続けた。年間のリーグで勝負が決まる形式であればおそらく都農は昇格できたと思うが、でも実際には昇格させられなかった。そこは申し訳なく思う」

    2025年にヴェロスクロノス都農は全社で優勝も達成した。

    2025年にヴェロスクロノス都農は全社で優勝も達成した。

    気持ちが動いたエリースからのオファー

    ── JFL昇格を果たせず都農との契約も満了。そういった中で今回エリースからのオファーを受け入れたのは。

    「去年、全社で優勝して地域CLにも出場して、あと一つ勝てば昇格。それをまた他のチームでやり直すという決断は簡単ではなかった。正直、自分の中では新しい道に挑戦するか、オファーがなければ一年間休むという選択もあった。ロティーナさんとの5年間の仕事量も相当だったし、都農でも監督だけでなく、強化、分析も担当していた。何より他の地域リーグのクラブに行ったとしても、また同じ情熱でやれる自信がなかった。それでも、最後に行こうと決めたのはエリースさんからのオファーが熱心だったから。中村社長から手紙をいただき、『エリースのサッカーを一緒につくってほしい。単にJFLに上げてほしいということではなく、小寺さんのサッカーをエリースに取り入れ、中長期的にクラブのサッカーを築いてほしい』。正直、都農のときは求められるものは結果だった。強いか、強くないかよりも、上がれるか上がれないか。もちろん一番大切なことは結果ということはわかっている。でも先程言ったように、ひとつの試合、ひとつのプレーで昇格が決まるかもしれないし、自分ではどうしようもない部分もある。だからこそプロセスが大事。その点をエリースさんからは評価・期待してもらった。今までのサッカー人生でそんなことを言われたことはなかったので、その期待に応えたいという気持ちが芽生えて受け入れた」

    ── 監督は去年都農で全社を優勝し、地域CLで3位。いわばJFLへ昇格するための基準を知っている。その基準から見て今のエリースはどう映るか。

    「ポテンシャルはあると思う。ただ、もろさも感じているのでポテンシャルで終わらないようにということは言っている。自分が持っている基準というものを全員に強く要求し続けるし、その基準というのは自分がというよりも、この厳しいカテゴリー自体が要求してくる部分もある。5日連続で勝たなくてはいけない、3日連続で勝たなくてはいけない、勝ち続けたとしても最後の試合で負けたら終わり。そういうことが要求されるカテゴリーであり、選手たちはそれを乗り越えていかなくてはいけない」

    ── 改めて監督のサッカー哲学、理想は。

    「自分たちがボールを握り、正しいポジションをとってポゼッションしやすい環境をつくる。そしてポゼッションしながら前進するためのスペース、味方を使って相手の守備をどんどんブレイクしてゴールに迫る。ボールを失ってもすぐにカウンタープレスをかけて前向きに奪って、またゴールに向かう。そういうポジティブなサイクルをどんどん回すことが理想。ボールを支配して、ゲームを支配することが自分のフィロソフィーになる。もちろんそれができない時も当然ある。そういう時は粘り強いプレッシングで前向きにボールを奪ってゴールに向かう。プレッシングもできずに押し込まれたら堅く守る。どんな試合でも勝つ、理想的な内容でなくても勝つチームを作っていきたい」

    ── 最後に今季のエリースはどんなところに注目すればよいか。

    「もともとエリースはボールを握って選手の創造性が活きるようなサッカーを志向してきたと思うので、そこは自分の哲学とも一致する。自分たちがボールを握って相手を動かしながら個人の技術で上回ってゴールに迫る。もちろん今の時代はそれだけでは勝てないので、プレーの強度を高く、守備の強度も高く、楽しく強く勝っていく。そういうチームを披露したい。目標はもちろんJFL昇格」

    エリース豊島FC

小寺 真人

小寺 真人

1988年生まれ 大阪府大阪市出身。大学卒業後にスペインへと渡り、本格的に指導者としての道を歩む。スペインでは主に育成年代の監督を務め、プロクラブの監督にも就けるライセンス・Level 3を取得。2017年からはスペイン人のロティーナ監督のもとでJリーグクラブの分析兼監督通訳として働き、2022年から九州リーグのヴェロスクロノス都農の監督に就任。2025年は全国社会人大会優勝、全国地域CL3位の成績を収め同年限りで退任。2026年から関東1部のエリース豊島の監督に就任した。

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