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ピッチの余白
後藤 勝|# 04
30歳で初のJ1 厳しさ糧にさらに成長を
秋春制へと移行し、新時代を迎えた2026-27シーズンに30歳でJ1デビューを果たした石川大地という選手がいる。左右の前十字靭帯損傷を乗り越えた苦労人で、一度目の時は同じけがをした同姓のサッカー人というだけで石川直宏(現FC東京コミュニティジェネレーター)に励まされたことで話題になったが、ステップアップの過程にも苦労があった。
桐蔭横浜大学から2018年当時J2にいたFC岐阜に加入。デビュー年に初ゴールも決めて将来を嘱望される存在になるかに思えた。だが前述のけがもあり、2019シーズン後半に期限付き移籍先のアスルクラロ沼津で2得点を挙げているものの、2020シーズンまでの在籍期間中に岐阜で残したゴールは2得点のみ。2020年9月2日のJ3第13節Y.S.C.C.横浜戦で身を投げ出すようにして決めたヘディングシュートには万能型ストライカーの片鱗が見えたが、シーズン終了後のオフに契約満了となってしまった。
彼が不屈の精神を発揮するのはそこからだ。2021シーズンに新たな居場所としたJ3のガイナーレ鳥取で6得点を挙げると、翌2022シーズンは15得点。そしてこの成績を携え、2019年の夏まで岐阜で指揮を執っていた大木武監督(当時)率いるロアッソ熊本へと移籍すると同時にJ2への個人昇格を果たし、2023、2024シーズンの2年間でそれぞれ9得点、10得点。ジェフユナイテッド千葉へと移籍した2025シーズンにも10得点を挙げ、チームとともにJ1昇格を果たした。
より注目されるJ1で
J3でもJ2でも二桁のゴールをマークしての着実なステップアップ。これまでは称賛のほうが多かったはずだ。だが、千葉という有名なクラブに所属し、舞台が最高峰のJ1となると、周囲の見る目は厳しくなる。ひりつくような緊張感が漂い、強い批判を受けることも珍しくないカテゴリー。しかしその実態にJ1一年目の石川は動じていなかった。
「カテゴリーが上がって、もちろん注目されることが増えてはいるけれど、自分の感覚としては1ミリもプレッシャーに感じたことはなく、むしろこの状況を楽しんでいるという感覚のほうが大きいかなと思っている」
彼を取材したのは、FC東京に0-2で敗れた明治安田J1リーグ第3節の試合後。ネーミングライツで「MUFGスタジアム」となっている大舞台の新国立競技場で、圧倒的なフィジカルの力を持つ東京に押し込まれながら、千葉は逆襲で一太刀浴びせようとする、そんな切迫した試合だった。
「自分が得意にしているプレーをしっかりピッチの上で表現すること、それが自分の成長にもつながるし、チームの勝利にも近づくと信じている」と、石川。その信念があらわれたのは後半14分だった。エリソンからディフレクション気味に転がってきたボールをすかさず捉え、右足でのシュート。これがサイドバックの石原広教にブロックされたあとさらにその背後へと抜け出そうとしたが、センターバックの稲村隼翔に引っ掛けられてチャンスの継続はならず。孤立した状態でもフィニッシュまで完遂しようとする、そんな気概を感じるシーンだった。
一瞬、一瞬を大事に
「相手にも隙があったので、あのシーンに関しては自分も悔しい。ああいう場面でシュートを枠に持っていく、ゴールにする選手がきっと価値ある選手だと思う。しっかりゴールにつなげていくことによって自分の価値を証明していくことが必要」
3年間ゴール数を伸ばせなかった状況を変え、J3でもJ2でも継続的にゴールを決めてきたのは、自身をそのカテゴリーやチームに合わせ最適化していくことができたからだ。移行期間にはハーフシーズンの明治安田J1百年構想リーグがあったが、真の力が試されるJ1へのアジャストはここからが本番だろう。
「個人昇格もそうだし、ジェフで昇格したのもそうだし、なぜ自分が上のカテゴリーに上がる度にやってこれたかというと、やっぱり前の選手として結果を残してきたからだと思う。そこは絶対に見失わずに。前の選手である以上、そこの部分が第一に来なかったら、選手としての成長は止まってしまう。そこは自分が一番大事にしているところ」
千葉の選手としてJ1の公式戦に出場できていること自体が、サッカー選手として大きなチャンスだと、石川は自覚している。「こういうチャンスはサッカー選手としてやっている以上、長くあるものではないと思う。そのチャンスを逃さずに、一瞬一瞬を大事にやっていきたい」。厳しい内容の敗戦にも折れることがない、プロ選手生活9年間のサバイバルで培われた精神のたくましさ。デビューの時よりも精悍さを増した大人の顔つきに、成長のあとがにじんでいた。