岩手は最後の15分間で逆転
写真:逆転勝利を喜ぶ岩手のGK若林ら。
MATCH REPORT後藤 勝
<JFL:横河武蔵野FC 1-2 いわてグルージャ盛岡>
PK決め、PK止めた FW藤本とGK若林が躍動
前半キックオフから後半30分までほぼ横河武蔵野FCに制圧されていたいわてグルージャ盛岡。だが後半31分にFW藤本がPKを決めて1-1の同点に追いつくと、その2分後に藤本が今度は逆転のゴール。守っては後半43分のピンチにGK若林がPKを止めて同点ゴールを阻止。勝点3と1では大違いであるところ、多いほうの結果を手繰り寄せ、J3復帰に向け心強い勝利となった。
武蔵野はやりにくい相手だった。プレッシャーをかけてボールを奪おうにもパスをつないでこない。パスをつないで相手のプレスを剥がしていこうにも、相手はプレスをそれほど強くはかけてこない。背後を衝こうにも、構えて守る相手にその背後は消されている。岩手はいいところを出せず、武蔵野の掌中で転がされるように試合は進んでいった。若林は「相手がノージャッジで蹴ってくるというのはわかっていたが、後ろが重く、全体的に引き腰になって、つなげるところもつなげなかったというのもあったなかで、前半ディフェンスの間にボールを入れられ、ぼくの判断ミス的なところもあって失点して、チームの状況を悪くしてしまった」と、分が悪いままに進んだ前半を反省していた。
しかしハーフタイムの修正を機に少しずつ積極性を発揮していくと、ついには藤本が流れを変えた。圧巻の2得点だった。詳しいところは「あまり言わないでください(笑)」と濁した1点目のPKは、タイミングをうまく外して相手の逆を衝いたもの。そしてボックス内の右でフリーになっての2点目は仲間を信頼してのポジショニングがすべてだった。「周りがしっかり運んでゴール前まで持ってきてくれるので、そこでああいう1本を狙っていた」と、藤本。真摯な姿勢を貫き、敗色濃厚だった空気をひっくり返した。
仕上げはGK若林だった。RB大宮アルディージャからの育成型期限付き移籍で加入している21歳になったばかりの守護神は、ここ岩手で出場機会を得て試合勘を取り戻しているところ。窮地を免れるPKストップは、前半の1失点を帳消しにして余りある、己を認めさせるに十分なビッグプレーだった。地元の東京都八王子市や埼玉県に近い武蔵野陸上競技場に集まった知己の人々、遠くから足を運んできたサポーターに「いいところを見せたい」という想いでゴール右に飛び、PKを止めた。
「ぼくは相手の足を見るとかではなく、もう最初から飛ぶ方向を決めるやり方。あとは、とりあえず身体を大きくしてプレッシャーをかけていた。ぼくの背(の高さ)は武器でもあると思っているし、見た目も多分ほかの人よりちょっとイカつめ。PKはプレッシャーをかけたもの勝ちだと思うし、もう出来るだけ出来るだけプレッシャーをかけてかけて、心の中で『こっち蹴れ、こっち蹴れ』みたいな感じだった」
1失点こそあったものの、この日はPKだけでなくいいクロス対応も出て開幕戦よりも進歩を見せ「自分自身にも余裕が出てきた」という。『キャプテン翼』のSGGKと同じ苗字を持つこの若武者が輝き、劇的な勝利。最高の結果を得たが、昇格をめざしより強いチーム力を求める藤本は満足していなかった。
「相手はやりたいことが出来たと思うし、逆にこっちはボールをつないでということが出来ず、間延びしてセカンドボールを拾われた。これは開幕戦時にやられたのと同じパターンなので、そこは修正しながら次の試合に臨まないとまた同じことをやられる。修正したいと思う」
作戦負けとなりそうな形勢を逆転させたのは地力、そして個の質の高さのあらわれだが、自信を積み重ねるには勝点3が2回だけでは足りないというのは、藤本の本音だろう。勢いに乗り始めた岩手が一年でのJ3復帰を成し遂げる確率が少しずつ上がっていきそうだと感じさせる、暖かいというよりは暑い初春の熱戦だった。
(後藤勝)
日本フットボールリーグ